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神戸家庭裁判所 昭和31年(家イ)364号 審判

申立人 滝田静子(仮名)

相手方 滝田菊夫(仮名)

主文

申立人と相手方とを離婚する。

調停費用は各自の負担とする。

理由

申立人及び相手方各本人審問の結果、当庁調査官の調査報告書並びに相手方の戸籍騰本の記載を綜合すると、次の事実を認定することができる。

(1)  申立人と相手方とは昭和一八年一二月○○日に婚姻し爾後平穏な夫婦共同生活を営んで来たものであるが、昭和二八年七月頃から夫婦相協力して○○区○○町○丁目の○○商店街で化粧品店の経営を始めたところ、相手方は同二九年四月頃、近くの飲食店に勤めていた申立外谷川久子と情交関係を結ぶに至り、翌年その関係を一応清算しながら、その後幾許もなくして同女とのよりを戻し、主として同女の許で生活するようになり、申立人とは事実上の離婚状態を続けてきたが、その間申立人は相手方を正常な夫婦共同生活へもどそうと努め、その結果双方は一時もとの共同生活にもどつたが、その関係も長く続かず、遂に相手方は昭和三一年三月○○日申立人の許を飛び出して上記谷川の許に走りその後引続き相手方肩書住所で谷川と同棲生活を続けているものである。

(2)  申立人は相手方が申立人の許を去つて後引続き独力で上記化粧品店の経営に努めたが女手一つでこれに当ることは容易でなく負債は日に嵩みそのため経営を維持することも困難になつて来たので、遂にこれを手放して負債の整理に充て、申立人が上記経営に関しその名義で負うた債務は債権者との話合いでほぼ解決しており、ただ相手方名義で借受けた約三万数千円の債務だけがなお未払の状態にある。

(3)  相手方は既に数年前から谷川と情交関係を結び、殊に昭和三一年三月○○日以降は同女と夫婦同様の生活を送つており、これに対して、申立人は相手方に遺棄されて一年有余にもなるし相手方との間に子もいなかつたところから、最近他男との間に再婚の話がかなり進んでおり相手方との離婚問題が解決すれば再婚することを考えている。

上記認定事実に基いて考えてみるに、申立人と相手方との婚姻関係は既に完全に破綻しており、しかもその破綻は主として相手方の不貞行為乃至悪意をもつて妻たる申立人を遺棄したことに基因することを推認するに難くない。

そこで当裁判所調停委員会においては事実関係にして上記認定のとおりであるので、双方の互譲を求め合意によつて解決の得られるよう種々努力したが、相手方は当裁判所に出頭しないことも屡々であり、殊に第四回調停期日以後には婚姻を継続する意思のないことを明かに表明しながら上記化粧品店の経営に関連して発生した債務額が明確でないことを口実に離婚に合意することができないことを徒らに繰返えすのみで本件離婚を平穏裡に解決しようとする誠意に欠けるところがあつて、それがため遂に調停は不成立に終つたが、上記認定の諸事情の外本件に現われた一切の事情を勘案し当事者双方のため衡平に考慮するとき、申立人と相手方とを離婚させ、以て双方をしてそれぞれ新たな人生に向わしめることが双方の現在及び将来のために相当であると認められるので、調停委員千松福太郎同辻節の意見を聞いた上主文のとおり審判する。

(家事審判官 西尾太郎)

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